巨星墜つ————
ついにこの日がやってきました。
以前「魅惑のギタリスト ~Jeff Beck編~」で紹介した世界的ギタリスト
Jeff Beck(ジェフ・ベック)氏が、23年1月10日(日本時間11日)に逝去されました。
世界中に衝撃が走りましたね。
もう、ほんとにショックというか喪失感が凄くあって。
悲しいとかではなく喪失感。ポッカリな感じ。
もちろん、むこうは僕のことなんて知らんけど。
勝手に憧れたし、勝手に追いかけようとしたし、勝手に挫折したし。
10代の頃、
ギターって凄い楽器なんだな、もっと追求したい! と思わされると同時に
こんな凄い人には絶対敵わないからギターやめようかな とも思わされた人でした。
以前の記事でも書きましたが
「ギタリストには2種類いる。ジェフ・ベックとそれ以外だ」と評されるくらいの人で。(タレントのローラ○ドさんが言っているのはここからきていると思われます)
ギターの可能性を極限まで引き出した人
まだまだ引き出せた人
引き出しすぎて誰も追いつけなくなった人
だと思います。
この人はとにかく独創的で。
おそらく真似するのが世界一困難なギタリストです。
奏法の解説記事や解説動画などもたくさんありますが
やはりうわべだけで、真髄にせまるコンテンツはなかなか無いといってもいいでしょう。
僭越ながら、僕もうわべだけ解説させていただきます。
極々、一部でも知ってもらえたら。
Jeff Beckというギタリストの凄さを少しでも伝えられるなら、と思います。
特徴
音がでかい
アンプの音量はデカめです。
倍音が豊かになり、アンプの性能を最大限引き出せるからです。
倍音についてはこちらを。(倍音って?)
若い頃はフィードバック奏法とかもやっていたようですね。デカイ音ならではでしょう。
フィードバック奏法とは、アンプに近づきアンプから出た音をピックアップに拾わせるというものです。
つまり
弦の振動をピックアップが拾う→アンプから音が出る→その音を再びピックアップで拾わせる→またアンプから音が出る という工程を繰り返すため途切れることなく音が出るわけです。
しかも「ピー」とか「ゴー」とか「ギャーン」みたいな音が出続けます。
大は小を兼ねるというか、アンプの設定が大きいままで小さな音は出せますが、アンプの設定が小さいままでは大きな音は出せません。
ステージ上ではみんなデカい音は出せても、日本の住環境じゃね・・・
自宅でも普段の練習でアンプMAXにできないと、なんとなくスタジオやステージでもMAXには持っていきにくかったりします。
Jeffはギターだけでなく、アンプの性能も最大限引き出していると言えるでしょう。
指弾き&パウダー
Jeff Beckの最大の特徴は?と聞かれれば。
指じゃないでしょうか。
指弾きで独特のトーンを出します。
指で弾くギタリストは沢山いますが、一味も二味も違いますね。
アコギのように5本全ての指を使うのではなく、親指メインで人差し指と時々中指。
薬指と小指はほとんど使わないんじゃないかな。僕の知る限りですが。
薬指と小指を使わないのは、次項のアーミングに関わってきます。
そして潤滑剤がわりにベビーパウダーを両手に振りかけます。
映像でもわかるんですが、手が真っ白なんですよね。
僕は試したことないのでわかりませんが、ツルッツルらしいです。
これにより左右のスムーズなフィンガリングとアーミングが実現可能なんでしょう。
アーミング
アーミングとはアームを操作して音程を変えることです。
エレキギターにはブリッジのところにアームというものがついています。(取り外せるもの・ついていないものもある)
これをギューっとボディ側に押し込むと弦長が短くなり音程が下がります。(アームダウン)
逆に、ボディから離れる方向に持ち上げると弦長が長くなり音程が上がります。(アームアップ)
ただし、これはユニットとボディの隙間がないと不可能なのでユニットを浮かせる(フローティング)か、最初からボディを抉っている(リセス加工)必要があります。
Jeffはフローティングさせていますね。
親指で弾きつつ残りの四本指を添えたり薬指と小指だけを添えたり。時にはアームを叩いて細かく音程を震わせるクリケット奏法など、変幻自在にアームを操ります。
ボディの裏側にはスプリングがありユニットをしっかり引っ張っているため、アームを細かく操るのはかなり難しいんですが。いとも簡単にやってのけますね。
このへんのスプリングやユニットの調整にも色々秘密があるんでしょう。
動画の1:59あたりからアーミングがちょいちょい確認できます。
激しいアーミングをするとチューニングが狂いやすくなりますが、Jeffのギターはナットがローラーナットといって弦との摩擦を極限まで減らしたものを使っており、チューニングの安定化も図っています。
また、フローティグさせているときはブリッジユニットに力を加えるとアームアップと同じ効果が得られます。
これもJeffの右手を見ていれば頻繁にやっていることがわかります。
ちなみに動画の1:23あたりで使っているものはボトルネックというものです。
その名のとおり ボトル=瓶、ネック=首 という意味ですね。
昔は実際に酒のボトルの首を切って使っていましたが、現代では金属製のものや陶器(セラミック)などもあります。
これを使うと独特のサスティン(音の伸び)と粘りが出ます。
チョーキング
チョーキングとは弦を上に押し上げるまたは下げるなどして
弦にかかる張力を増やすものです。
こうすることで音程が上がります。
チューニングでペグを締める方向に回すのと同じ効果です。
上記のアーミングで言うならばアームアップと同じですね。ただし、アームアップはブリッジユニットごと動かすので全ての弦の音程が上がってしまいます。
チョーキングは狙った弦だけの音程を変えることができます。また、アームアップよりも細かいニュアンスを出しやすいです。
Jeffくらいになるとアームでも細かいニュアンスを出せるんですが。
ギターやピアノなどは、音程が区切られています。
つまりデジタルな楽器です。(フレットレスギターは除く)
「ド」の音程の次は必ず「ド#」なので、「ド」と「ド#」の間の絶妙な音程は出せません。
チューニングを変えないかぎり。
ところがチョーキングであればこの2音間の絶妙な音程を作りだすことができるんですね。
理論上、無限の音程を出せるわけです。
「ド」と「ド#」の間を無限に区切ればいいので。
Jeffはチョーキングも駆使します。
そして巧い。
ちゃんとした音程に的確に持っていくことはもちろん、絶妙なニュアンスを出すテクニックもあります。これもまた多彩な表現に一役買っていますね。
スイッチコントロール
スイッチは全てを触ります。
ピックアップセレクター、ボリュームノブ、トーンノブ。
僕も演奏中スイッチは全て触りますが、Jeffはもう尋常じゃなくて。
常に細かくコントロールしているので、とにかく右手がせわしなく動いています。
アーミングしながらボリュームノブを触ったりもします。
これ、けっこう難しいんですよ。
アームの動く軸(ボディに対して上下)とノブの動く軸(ボディに対して左右の回転)が違うからです。慣れないとね、混乱します(笑)
ネックベンド
ネックベンドとはギターのネックをbend(=曲げる)するというテクニックです。
ギター本体のほとんどが木でできています。
そしてネックは細いので力を加えてやれば多少曲がります。目に見えないレベルではありますが。
ネックが曲がるとどうなるか。当然、弦の張力が変わるため音程に変化がでます。
と言ってもアーミングやチョーキングほどの大幅は変化は出ません。
音程をしっかり変えるというよりもビブラート(音の細かなゆらぎ)に近いでしょう。
これも立派は表現の一つですが、個人的にはこのテクニックは好きではありません。
ネックに負担がかかるからです。
Michael Schenker(マイケル・シェンカー)なんかはよくネックベンドをしますが
やりすぎてネックを折ったこともあるみたいだしね(笑)
動画の0:12あたりでネックベンドが確認できます。
最後に
さて、いががだったでしょう?
Jeff Beckの特長を解説してきましたが、こんなのはごく一部です。
僕なんかが文字で書き起こせるようなものではありません。
読んでわかるとおり、Jeff Beckの凄さはトーンコントロールなんですよ。
とにかく「音」、ニュアンスに徹底的にこだわる。
ちょっと神経質な性格だったようで、そのへんも様々なこだわりに影響しているかもしれませんが。
一方でギターを弾いているときは子供のような人だったともいわれます。
ただ純粋にギターを楽しみ、ただ純粋にギターの可能性を追い求めていく。
少しでも真似できたらな、と個人的には思います。
この人の演奏をどれだけ聞いても、映像をどれだけ見ても飽きません。
ギタリストにとっては宝物というか、ワクワクするようなものがこれでもかというくらいに散りばめられていて興味が尽きないんです。終わりがない。
本当に素晴らしいものを残してくれました。
唯一無二のスタイル、表現力の極み。
誰も追いつけなかった孤高の天才ギタリストJeff Beck。
安らかに。
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